運やツキの正体とは?心理学から紐解くギャンブル依存と不確実性との向き合い方
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奥山 裕基
マネット編集担当/キャッシングガイド
FP資格を有し、カードローン・消費者金融および貸金業に関する豊富な知識を持つ編集者。関連法規(貸金業法・金融商品取引法等)の理解を深めつつ、多数のローン経験者へのインタビューや金融機関勤務経験者へのヒアリングをもとにリアルな情報収集を怠らず、自身も当サイトにおいて1,000本を超える記事を執筆。生活に欠かせない「お金」だからこそ最適な意思決定を支援したいという理念のもとに情報発信を行っている。
日常のふとした瞬間に感じる「今日はツイている」「運が悪い」という感覚。また、ギャンブルや投資において「次こそは勝てるはず」と根拠のない期待を抱いてしまうのはなぜでしょうか。
今回は、社会心理学を専門とされ、人が運に対して抱く信念や不確実な状況下における意思決定プロセスを研究されている、奈良大学の村上幸史教授にお話を伺いました。
私たちが陥りがちな「思考の癖」や、ギャンブル依存のメカニズム、そして未来の不確実性とどう向き合うべきかについて、心理学の視点から詳しく解説していただきます。

奈良大学社会学部心理学科 村上幸史 教授
人がランダムな事象に「因果関係」を見出してしまう心理

村上先生
先生は社会心理学の観点から、人が「運」に対して持つ考え方や、不確実な状況でのリスク認知などを研究されているそうですね。

村上先生
私たちが「運」や「ツキ」の連続性を信じてしまう背景には、人間の「ランダム性を認めたくない」という強い心理傾向があります。
たとえば、コインの裏表やサイコロの目といった現象は、本来完全にランダムで、前後の結果に因果関係はありません。
私たちが日常やギャンブルの場で「次はこうなるはずだ」と根拠のない期待を抱いてしまう心理的な背景について教えていただけますか。
短期的には同じ結果が偏って続けて起こることがしばしばあります。人間はこうした偏りを目にしたとき、実際には無関係であるにもかかわらず、そこに何らかの関連性や因果関係を結びつけて考えてしまうのです。
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間違った思い込み |
- これだけ裏が続いたから、次は表が出るだろう
- 表が出る可能性が高まっているはずだ
自分でコントロールできない不確実な状況を、なんとかしてコントロールしたいという人間の『統制欲求』が、こうした認知の歪みを生み出しています。
また、ギャンブルの初心者によく見られる「ビギナーズラック」も同様です。たまたまビギナーズラックで勝つと、人は「自分にはギャンブルの才能がある(能力の1つだ)」と勘違いしやすく、それが賭け事を続けるきっかけになってしまいます。
スポーツの「勢い」や「流れ」という言葉もよく使われますが、これも心理的なバイアスなのでしょうか。
スポーツの場合は実力や精神面が絡むため一概に完全なランダムとは言えませんが、多くの場合は「人の見方の問題」であることが多いです。結果が連続しているのを見て、私たちが勝手に「勢いがある」と解釈している側面が強いのです。
こうした運に関する考え方はギャンブル特有のものではなく、試験やスポーツ、あるいは「たまたま電車のタイミングが良かった」といった、日常生活のあらゆる場面に現れる非常に普遍的な心理現象です。
ギャンブル依存症の定義と、深入りを招く「サンクコストの心理」
ここからは「ギャンブル依存」というテーマについて深掘りさせてください。
競馬などの公営ギャンブルにおいて、「ダメだと分かっているのにやめられない」「ついつい大金を賭けてしまう」という瞬間を経験する人は少なくありません。医学的な観点も含め、ギャンブル依存症とはどのようなメカニズムで起こるのでしょうか。
まず誤解されがちなのですが、医学的な診断基準においてギャンブル依存症(疾患)は、「脳のどの部位が異常か」といった生物学的な症状だけで診断されるものではありません。
基本的には、金銭的なトラブル(借金など)や、ギャンブルのために仕事を休む、人間関係が破綻するといった、具体的な「社会的・日常生活への支障」がどれほど多発しているかが診断の基準となります。
本人のメンタルだけでなく、周囲の状況や社会的な問題が基準になるのですね。
はい。はまり具合にはレベルがあり、ストレス解消や暇つぶし、自分が困らない範囲での遊びに留まっているうちは依存のレベルは低いです。
しかし、それが「現実逃避」や「一攫千金の夢」、あるいはギャンブル自体が自分の「アイデンティティ」になってしまう段階に達すると、生活に重大な支障をきたし始めます。
生活に支障が出ているのに、さらにのめり込んでしまうのはなぜですか?
そこには、経済学でいう「サンクコスト(埋没費用)」の心理が強く働いています。人は「失ったもの(負けた金額)をなんとかして取り戻したい、チャラにしたい」という心理を抱きやすい生き物です。
「この負けを取り戻したら終わりにしよう」と考えてさらに注ぎ込む行為こそが、依存への第一歩であり、さらなる深入りを招く悪循環を生み出します。脳の機能を調べる研究でも、前頭葉の機能がうまく働いていない人ほど、負けている状況でもハイリスク・ハイリターンの賭けにこだわり続けてしまう傾向が示唆されています。
近年は「投資」を始める人も増えていますが、投資にも同様の危険性はあるのでしょうか。
投資をしている方は「これはギャンブルではない」とおっしゃることが多いですし、生活費を賭けるようなギャンブルとは性質が異なる部分もあります。
しかし、動く金額が大きいため、一度損失が出たときに「一攫千金で取り戻そう」とする思考プロセスや心理メカニズムは、ギャンブルと非常に近いところにあると考えています。メディアでは儲かった人の話ばかりが注目され、トータルで損をしている人の存在が見えにくくなっている点も、金銭感覚を狂わせる要因になり得ます。
幸運が続くと運が減る?先生が提唱する「運資源ビリーフ」とは
村上先生の研究テーマの1つに「運資源ビリーフ」という興味深い言葉があります。これはどういった概念なのでしょうか。
「運資源ビリーフ」とは、運を『有限な資源』として捉える信念のことです。「幸運が続くと、自分の持っている運の量が減ってしまう、使い果たしてしまう」と考えたり、「良いことがあった後は、うまくいかないとか、悪いことが生じると予測しやすい」と捉えたりする思考の癖を指します。
日常でも「ここで運を使いたくないな」なんて言うことがありますね。
まさにそれです。この運資源ビリーフを持つ人は、物事の「メリハリ」を強く意識する傾向があります。分かりやすい例でいうと、「練習で調子が良くて、そこで運を使い果たしてしまったから、本番で失敗した」と考えてしまう学生などが挙げられます。
このように考えると、過去の幸運のせいで今失敗したという思考になり、「無駄に運を使ってしまった」という強い後悔を生み出しやすくなります。
面白いことに、「運は善行(良いこと)をすれば増える」と考える人はごく少数で、運資源ビリーフを持つ多くの人は運を「減っていくもの」「その総量が決まっているもの」としてネガティブに捉えています。そのため、この信念が強い人ほど、良いことが続かないという予測が、幸福感を低下させている可能性があるという研究結果も出ています。
未来を予測したい人間がフラグを立てるワケ
もう1つ、私たちはネットや日常で「フラグが立つ(不吉な予兆など)」という言葉をよく使います。これも不確実性と関係があるのでしょうか。
大いに関係があります。人は未来の不確実性をコントロールしたいために、あえて「予測(フラグ)」を立てようとするのです。 本来、誰がどんな発言をしようが、スポーツの試合結果や偶然の出来事には無関係なはずです。
しかし人間は、物事が「ランダムに起こる」という事実をそのまま受け入れるのが非常に苦手な生き物です。どうしても「原因と結果」を結びつけて偶然性を理解したいがために、「あの人があの発言をしたからフラグが成立した」という風に理由付けをしてしまいます。
悪い結果が起きたときに「ほら言わんこっちゃない」とその発言をした人の責任に帰すなど、ランダム性を排除しようとする人間特有の行動と言えます。
思考の癖を知り、ランダム性を受け入れることで「納得のいく決定」を
お話を伺っていると、人間は自分自身で認知の歪みを作り出し、生きにくくしているようにも思えます。こうした情報やバイアスが飛び交う社会で、私たちが納得のいく自己決定をしていくためには、どのような姿勢を持つべきでしょうか。
私は研究者として「運を良くする方法」を提供することはできませんし、それは誰にも分からないと思っています。 ただ、大切なのは「人間は放っておくとそういう偏った考え方(思考の癖)をしてしまいがちな生き物だ」と客観的に『知る』ことです。
知っているからといってすべてがうまくくいくわけではありませんが、自分がバイアスに囚われていると気づければ、一歩引いて納得のいく選択ができるようになります。
先生ご自身は、日々の生活で意識されていることはありますか?
客観的な意味での幸運や不運(たまたま電車が遅れて予定に間に合わなかったなど)は厳然として存在します。しかし、それに一喜一憂しすぎず、「世の中のことには、偶然性に左右される要因が必ず含まれる」と考えるようにしています。
どうしようもない不運が起きたときは、下手に取り戻そうと躍起になるのではなく、「これはランダムな現象だから仕方がない」と良い意味で『諦める』こと。これが、心理的な安定を保ち、サンクコストの罠に嵌まらないための知恵ではないでしょうか。
素晴らしいお話をありがとうございました。最後に、村上先生の今後の研究の展望についてお聞かせください。
今後も、人間が物事の連続性に対してどのような思考プロセスを持つのか、そして不確実でランダムな世界をどのように受け入れようとするのかについて、さらに研究を深めていきたいと考えています。
また、こうした運やツキに関する考え方については、一般向けに執筆した著書
『幸運と不運の心理学』にも詳しくまとめていますので、ご自身の思考の癖を知るヒントとして、ぜひ多くの人に触れていただければ幸いです。
まとめ
今回のインタビューでは、奈良大学の村上幸史教授に「運」や「不確実性」にまつわる人間の心理メカニズムを解き明かしていただきました。
私たちがギャンブルで熱くなってしまったり、「運を使い果たした」と落ち込んだりする背景には、コントロールできない現実をどうにかして理解しようとする、人間らしい『思考の癖』が隠されていました。
日常の不運や損失に直面したときこそ、一歩立ち止まり、「世界はランダムなものである」と受け入れること。そのフラットな視点を持つことこそが、私たちが不確実な社会を賢く、そして穏やかに生き抜くための鍵となるのかもしれません。