借り入れが制限される総量規制とは何か?対象外の借り入れも!
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ファイナンシャルプランナー
AFP FP2級技能士 住宅ローンアドバイザー ライフプラン応援事務所代表
2013 年に FP として独立してから一貫して「家計」と向き合い、マネーリテラシーの向上でお金の不安が軽減することを実感。お金の不安を抱える人が、自分自身で問題を解決できるよう、お金の基礎知識を底上げするための啓蒙活動を行う。WEBコラム・セミナーなどで家計や住宅ローンなどお金について幅広い情報を発信している。
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現在は毎月の給料でやり繰りしているけれど、不測の事態で収入が減ったり一時的に支出が増えたりしたときに、生活していけるか不安な方は多いでしょう。万が一の際は、返済できる範囲で借り入れに頼るのも有効な選択肢です。
ただし、貸金業法での借り入れは、法律で借入上限が決まっています。借り入れ額が制限される「総量規制」について解説します。
1 総量規制の概要と目的
「生活が苦しいから借り入れをしたい」と考えても、借りたいだけ借りられるわけではありません。総量規制と呼ばれる規制で、貸出額が制限されているからです。
総量規制を一言でいうと、個人の借り入れ総額を年収の3分の1までに制限するものです。つまり、給与年収が300万円なら3分の1にあたる100万円が借入上限に。この決まりは「貸金業法」という法律で規定されています。
もしも、給与以外に収入がある場合は、それも含めることで計算できます。例えば給与年収が300万円で、副業による事業所得が100万円ある方ならば、約133万円(400万円×1/3)まで借入上限が引き上がります。
なお、総量規制は個人が対象となり、法人向け(事業向け)の貸付けは対象外です。
複数社からの借り入れは合算して判断
総量規制における借入上限は「年収の1/3まで」となっていますが、これは1社からの上限ではありません。複数社から借り入れを行った場合は、複数社の借り入れを合算して判断します。借り入れ情報は、借り入れ時に内閣総理大臣より指定を受けた「指定信用情報機関」に登録されるため、他社の借り入れも貸金業者は把握可能です。
信用情報とは、単に借り入れ額だけを指すのではなく、契約内容・支払状況などで、重要な情報であるがゆえに、厳重に管理されています。
また借り入れ者の年収については、以下の場合に給与明細や源泉徴収票など収入を証明する書類を提出することで把握します。
- ある貸金業者から50万円を超えて借り入れる場合
- 他の貸金業者から借り入れている分も合わせて合計100万円を超えて借り入れる
出典 日本貸金業協会
ただし、上記の条件に当てはまらない場合でも、貸金業者の裁量によって収入を証明する書類を求められることがあります。
総量規制の目的は消費者を守ること
借り入れ額に決まりがあるため、借り入れを行う側からすると、面倒に感じるかもしれません。
しかしながら、総量規制の目的は私たち消費者を守ることです。返済能力以上の借り入れを行ってしまうと多重債務・自己破産の危険性が高まるため、総量規制で返済の安全性を担保するのです。
返済できる金額の一定の目安として「借入上限は年収の1/3まで」との基準が設けられています。
2 総量規制の対象と例外
総量規制の対象となるのは貸金業者の貸付けです。貸金業者とは、いわゆる「消費者金融」のほか、「クレジットカード会社」なども該当します。
クレジットカードで買い物をしても総量規制の対象とはなりませんが、クレジットカードを活用したキャッシングは総量規制の対象です。
総量規制が当てはまらない借り入れ
総量規制について知ると、「じゃあ数千万円もするマイホームが欲しいときはどうすればいいの?」と疑問を感じるかもしれませんが、住宅ローンは総量規制の対象外です。そもそも、貸金業者に該当しない銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫などからの借り入れは、貸金業法の規制(総量規制)の対象外となっています。
個人事業主が事業のために借り入れをする場合も、総量規制の例外と認められています。ただし、事業のためであればいくらでも借り入れ可能なわけではありません。事業計画や資金繰りを融資元に提示し、返済が妥当と判断された範囲で借り入れることになります。
また「自動車ローン」や「高額療養費の貸付」も対象外です。
「高額療養費の貸付」については、ご存じない方も多いかもしれませんが、これは医療費が高額になった場合の救済措置です。医療費が一定の額を超えた場合、申請すると「高額医療費」が支給されますが、支給までに一定の期日がかかります。支給までの期間を支援するために、高額療養費支給見込額の8~9割相当額を無利子で借りることができる制度(※)です。
※加入している公的健康保険によって詳細は異なります。
世帯主ではない配偶者の借り入れはどうなる
家計を補助的に支える働き方として、年間100万円程度のパート収入を得る方は多いです。仮に、子育てをしながら夫の扶養内で働く「パート主婦」が家のために借り入れをしたい場合、自身の収入だけでは希望する借り入れ額に達しないケースが考えられます。
この事例では世帯年収を合算できる「配偶者貸付」が有効です。配偶者貸付は次の4つの要件を満たすことで世帯収入の合算が可能になります。
- 配偶者の収入を証明する書類
- 夫婦間の身分関係を証明するため書類(「住民票」「戸籍抄本」など)
- 配偶者貸付を行うことについての、配偶者の同意書
- 指定信用情報機関に対する信用情報の提供などについての、配偶者の同意書
配偶者貸付は夫婦で総量規制の枠を共有することとなります。つまり上記のケースで妻が配偶者貸付を行うと、妻の借り入れ額の分、夫の借り入れ枠も減りますので注意しましょう。
3 総量規制の注意点
総量規制は消費者を守るための制度ですので、「年収の3分の1以内であれば、必ず借りることができる」といった趣旨ではありません。貸金業者の審査によっては借り入れ額が年収の3分の1よりも小さくなることがあります。
そもそも、借りられるだけ借りるのは危険ですので、今後の収入を見通し、返せる額を借りるのが正解です。
苦しいから借りるのであって、「返済の見通しまで考える余裕はない」方もあるかもしれません。その場合は、返済額が収入の2~3割に収まるようにすることをおすすめします。
総務省の「家計調査年報(2018年)」によると食費や家賃、通信費など生活に必要な費用は可処分所得(※)の7割程度となっているからです。一般的には2~3割程度の返済であれば、最低限の生活費を圧迫することなく返済していけると考えられます。
※可処分所得とは収入から税金・社会保険料などを差し引いた、実質的に自由になるお金のこと
出典 総務省「家計調査年報(家計収支編)2018年(平成30年)(PDF)」 P.12
総量規制を知れば借入可能額を把握できる
もしも現在は借り入れに頼る必要性がなかったとしても、「借入可能額」のボーダーラインを把握しておくことはリスク管理の一環として重要です。また借り入れのボーダーラインとともに、自身の家計支出における「返済可能額」も、平素から認識しておきます。
借り入れと返済の正しい見通しを持っていれば、生活が苦しいときに借り入れを有効に活用することができるでしょう。